胸腔鏡下手術のうち通常のマルチポートVATS(バッツ)は、手術する側の腋の下に3〜4カ所の穴を空けて胸腔鏡という専用のカメラを挿入し、全員で同じ画面を見ながら作業します。長らく行われてきた、胸を大きく開ける開胸手術に比べて傷口が小さくてすむというメリットがあり、現在日本で行われる呼吸器外科手術の約7割がVATSで行われています。
VATSのうち、1ヶ所の傷のみで手術を完了してしまうのが「単孔式手術(ユニポートVATS)」です。3〜4cmの傷で行いますので、合計するともっとも傷が小さな手術方法です。従来のVATSや開胸手術と比べるとユニポートVATS専用の道具が必要となったり、技術的なコツが必要で習熟するためにはしっかりとした練習・勉強が必要な難しい手術であり、ユニポートVATSを行っている病院はまだ多くはありません。
なお現在、ヨーロッパの一部や東アジアの国々ではさかんにユニポートVATSが行われており、今後日本でも普及する呼吸器低侵襲手術の一つであると言われています。
愛知医科大学病院呼吸器外科ではこれまで、患者さんの負担軽減を目指してできるだけ侵襲の少ない手術を提供できるよう努力してきました。これからもこの努力は続けていきます。ユニポートVATSに関しては、とくに2021年以降、適応となる患者さんに対して導入し、20件以上施行してきました。従来の開胸手術や複数個の穴を開けるVATSと比べても術後の痛みは少ない印象があります。そのため、手術の翌日から80歳以上のご高齢の患者さんでも歩行が可能で順調に回復していただけています。またチームの中には50件以上のユニポートVATS執刀経験のある医師もおり、これからも愛知医大病院呼吸器外科ではこの手術を提供していく予定です。
高い技術が要求されるユニポートVATSを安全に行うために、手術にのぞむ前にはブタの心肺で作られた練習用モデルを活用して、ヒトの手術と似た環境を用意し、十分なトレーニングを積むようにしています。このトレーニングは1ヶ月に1回は継続して行っており、これによって患者さんにさらに良い手術を提供できるよう努力しています。現在は2名がユニポートVATS肺葉切除の術者として取り組んでいますが、当科に所属する医師の多くがこのトレーニングに参加し、助手や縦隔腫瘍切除、肺部分切除を含めるとすべて医師がこの手術を経験しています。
ユニポートVATSが可能かどうかは、患者さんごとの病名、病状、病気の進行程度、持病の有無などによって私たちのチームが適切に判断いたします。医学的な判断が必要なので、必ずしも患者さんのご希望に沿えるわけではありませんが、もし単孔式手術(ユニポートVATS)に関してご要望やご質問などがありましたら、外来にて医師にお尋ねください。