縦隔腫瘍|愛知医科大学 呼吸器外科 - Division of Chest Surgery, Aichi Medical University

Mediastinal tumor Mediastinal tumor

縦隔とは一般の方にはなじみのない名前ですが、これは胸部の「領域」の名前で肺や食道のような臓器の名前ではありません。胸に手を当ててみると胸骨という骨に触れますが、この胸骨と背骨の間の領域が縦隔になります。胸部の領域なので下端はお腹との境界である横隔膜になります。この領域には心臓、食道、胸腺、リンパ節、種々の神経や胸管、リンパ管が含まれます。このように縦隔にはいろいろな臓器が含まれるので縦隔には様々な腫瘍ができます。しかし心臓腫瘍と食道腫瘍は通常縦隔腫瘍からは除外されます。
日本胸部外科学会の報告では胸腺腫が最も頻度が高い縦隔腫瘍です。次いで先天性嚢胞、神経原性腫瘍、悪性リンパ腫と続きます。その他胸腺からできる胸腺癌や胚細胞性腫瘍もあります。

1 胸腺腫、胸腺癌

胸腺腫は胸腺から発生する悪性腫瘍で腫瘍上皮細胞と未熟な非腫瘍性リンパ球が混在した腫瘍です。顕微鏡で見ても一見良性腫瘍のように見えるしゆっくり大きくなりますが、進行したら根治が困難になります。さらに重症筋無力症などの自己免疫疾患の原因になる疾患で、自己免疫疾患の発生前に治療することが肝要です。
治療は外科的切除で、進行していてもまわりの臓器を合併切除したり、播種切除で根治を目指します。化学療法や放射線療法も補助的に使用されます。
胸腺癌はその名の通り胸腺から発生する癌です。早期発見して外科切除できれば根治が期待できます。胸腺腫よりも悪性度が高く転移や再発率も高いですが、近年有効な抗がん剤治療も報告されるようになってきました。

2 胚細胞性腫瘍

性腺以外から発生する性腺外胚細胞性腫瘍の代表的な疾患として縦隔発生胚細胞性腫瘍が挙げられます。臨床的には良性胚細胞性腫瘍(奇形腫)と悪性胚細胞性腫瘍に分けられます。奇形腫は良性ですが自己消化による嚢胞の穿孔を引き起こすことも知られており手術適応となります。悪性胚細胞性腫瘍はセミノーマと非セミノーマに分類され若年男性に見られる腫瘍で化学療法および放射線療法が有効ですが、確定診断のために生検が必要です。

3 神経原性腫瘍

神経原性腫瘍は神経(節)細胞由来のものと神経線維由来のものに分類されます。成人の場合神経線維由来の神経鞘腫が多く、ほとんどが良性です。後縦隔(椎体傍領域)腫瘍の代表的な疾患です。胸腔鏡下切除の良い適応ですが、多くの場合は切除の必要がありません。

4 リンパ系腫瘍

従来縦隔悪性リンパ腫にも手術療法を適応してきましたが、現在では基本的に化学療法主体の治療が選択されます。確定診断のために生検が必要です。

従来は縦隔腫瘍に対する手術アプローチは胸骨を真ん中で切開して左右に開いて手術をしていましたが、今は胸腔鏡を使用して低侵襲に手術ができるようになりました。特に鳩尾(みぞおち)の部分から行う剣状突起下アプローチの開発により胸腔鏡下手術の安全性が向上し適応が拡大しました。
現在、愛知医大呼吸器外科では胸腺腫のみならず前縦隔に発生するほとんどの腫瘍に対してこの手術方法で治療をしています。最近ではかなり大きな腫瘍もこの方法で切除可能です。また、ロボット支援下手術(ダビンチ手術)で縦隔腫瘍の切除を行う際にもこの剣状突起下アプローチで行っています。腫瘍が大きい場合には摘出する際に背部に皮膚切開をおいてそこから取り出すことで疼痛の軽減を図っています。結果、近年では胸骨正中切開を必要とすることがほとんどなくなりました。